認知症の周辺症状とは?原因・主な症状・出現時期・対処法について解説!

認知症の症状は個人差が大きいことで知られています。その理由は、認知症の主な症状である中核症状が数種類存在するだけでなく、中核症状から派生する周辺症状も多数存在するためです。

当記事では、認知症の周辺症状の概要・原因・主な症状・出現時期・対処法といった、周辺症状に関する一通りの知識を解説しています。

認知症の症状をより詳しく理解したい方や、周辺症状について気になっている方は、ぜひ参考にして下さい。

目次

認知症の周辺症状(BPSD)とは?

認知症の周辺症状とは、中核症状(脳の神経細胞が損傷・働きが低下することで直接的に生じる症状)を原因として、二次的に起こる心理的・行動的な症状のことです。BPSD(Behavioraland Psychological Symptoms of Dementia)とも呼ばれています。

周辺症状は、記憶障害・理解力低下・判断力低下・実行機能障害など脳の機能低下が直接的な原因となり、さらに性格・人間関係・生活環境等の複数の要因が絡み合って発生します。そのため、出現する症状の種類や程度はさまざまで、個人差が非常に大きいことが特徴です。

認知症の周辺症状は、中核症状と同じく早期に適切な治療やケアを行う事で、症状の緩和や改善を図れるケースがあります

認知症の中核症状を再確認しておこう

認知症の周辺症状は中核症状が原因で発生するため、原因となる中核症状は把握しておく必要があります。下記に解説していますので、改めて確認しておきましょう。

記憶障害直前の会話や行動が思い出せない。
見当識障害時間・季節・人物・場所などを認識することができない。
理解・判断力の障害物事を理解したり判断したりするスピードや適切な判断を行う能力が低下する。
実行機能障害何かに取り組むための計画や段取りを立てることができない。
失語言語機能をうまく使えなくなる。
失認視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚といった五感が正常に機能しなくなる。
失行身体機能に問題はないが、これまで行っていた動作ができなくなる。

認知症の周辺症状による影響

認知症の周辺症状は、本人が症状により辛い思いをするだけでなく、別の周辺症状を誘発したり認知症自体の悪化を招く恐れがあります。本人だけでなく介護者の負担も大きく、激しい症状がある場合は介護者の生活の質に多大な影響を及ぼす場合があります。

また、専門的な治療・ケアや入院が必要となる場合も少なくないため、経済的負担が大きくなることも問題です。専門的な病院・施設への入院の時期が早まると、ライフプランの大幅な変更を余儀なくされる場合もあります。

このように認知症の周辺症状は本人および家族に多大な影響を及ぼすため、できるだけ早い段階で専門医への相談を行い、症状の軽減やリスクの緩和を図ることが重要です。

関連記事:認知症で入院した場合の費用とは?専門病棟が詳細を解説

認知症の主な周辺症状

ここでは認知症の主な周辺症状について解説します。周辺症状は大きく分けて精神症状と行動異常に分けられるため、各症状がどちらに該当するかを理解しておくことも重要です。下記に解説していますので、参考にして下さい。

【精神症状】不安・抑うつ・意欲低下

不安・抑うつ・意欲低下といった精神症状は、認知症の周辺症状で多く見られる症状です。認知機能の低下により心身の機能が失われていくと、やがて日常生活に支障をきたしたり活動を楽しめなくなったりして、不安や気分の落ち込みを招きやすくなります。

また、意欲が低下することで物事に無関心となったり、外出せず引きこもりがちになったりする場合もあります。

食欲減退や意欲低下が顕著である場合は、認知症ではなく鬱病と誤診される場合もあるため、不安・抑うつ・意欲低下が認知症の周辺症状であると疑われる場合は、早めに認知症専門医へ相談することが重要です。

【精神症状】幻覚

幻覚・錯覚は、認知症患者の脳内で神経同士の情報伝達に障害が生じることが原因で起こる周辺症状です。

幻覚とは、実在していないものが実在しているかのような体験をする症状で、細かく分類すると幻視・幻聴・幻臭といった症状があります。幻覚は、睡眠障害・異食・ろう便など他の周辺症状に繋がる場合もあるため、異変が認められた場合は早めの対処と治療が必要です。

幻覚は、周囲の方が実感できないため、理解や共感が難しい症状ですが、安心感を与えて気持ちを落ち着かせることが介護のポイントとなります。

【精神症状】妄想・せん妄

妄想とは、認知機能の低下や、不安・恐怖・寂しさといった強い感情などが原因となり、事実とは異なることを現実であるかのように信じてしまう症状です。

認知症の妄想の代表的な症状には、物を盗まれたと周囲を疑う物盗られ妄想、周囲から責められていると感じる被害妄想が挙げられます。

他にも、対人妄想・嫉妬妄想・見捨てられ妄想などがあり、種類が多く症状に個人差が大きいことが特徴です。

せん妄とは、脳の特定の部位の過剰な興奮と活動低下により引き起こされる意識の混乱のことです。見当識障害が起こり時間・場所が分からなくなることで、幻覚を見る・怒りっぽくなる・思考が混乱する・興奮するといった症状が現れます。認知症の方に多く見られますが、原因は多岐にわたるため、必ずしも認知症が原因であるとは限りません。

【精神症状】睡眠障害

認知症患者は、次のような理由から睡眠障害になりやすくなります。

  • 認知症による脳機能の低下
  • 睡眠と関連する脳部位の変性、
  • 加齢による睡眠の質の低下
  • 行動量の低減やベッドで過ごす時間の長さによる生活リズムの乱れ

このような原因が重なると、不眠・昼夜逆転・過眠といった睡眠障害が起こりやすいため注意が必要です。睡眠時無呼吸症候群を招く場合もあります。

睡眠障害は認知症の悪化を招きストレスの増加にも繋がるため悪循環です。

そのため、睡眠障害の兆候が認められたら、日の光を浴びて生活リズムを整える・日中は積極的に活動する・リラクゼーションを行う・メンタルケアを行うといった対策を施すことが重要となります。

【行動異常】多動・徘徊

認知症周辺症状における多動とは、不安や緊張を上手く表現できず、その気持ちを発散するために動き回る症状のことを言います。

落ち着きがなく同じコースを歩き回る周回、同じ時刻に同じ行動を繰り返す時刻表的生活など、同じ行動を何度も繰り返すのが特徴です。

徘徊とは、行き先が分からなくなる記憶障害・時間・場所が分からなくなる見当識障害により、家の中や外を絶えず歩き回る症状のことです。

特に外での徘徊は事故・事件・行方不明につながる危険性があるため、鍵の置き場所の管理の徹底・GPSやセンサーによる見守りサービスの活用・自治体や民間事業者による安否確認を利用するなどの対策をとる必要があります。

多動・徘徊はどちらも介護者の負担が非常に大きい症状であるため、自宅介護が難しい場合は入院が必要となる場合もあります

【行動異常】暴言・暴力

認知症が進行すると、脳の機能低下により、思考力・理解力・判断力が低下するだけでなく、脳の萎縮により感情のコントロールも効かなくなるため、ストレス・不安・不自由が高ぶると暴言や暴力に発展してしまうケースもあります

本人の意志や感情に寄り添い、症状について理解して、感情を高ぶらせないように対処すれば、症状の軽減が可能な場合もあります。

しかし、脳の機能低下や萎縮が原因であるため本人の意思で抑制することが難しく、周囲が諭しても対処することは困難です。そのため、介護者にとっては大きな負担となる周辺症状となります。

【行動異常】不潔行為

不潔行為とは、「トイレの失敗や失禁」「排泄物で衣類や部屋を汚してしまう弄便」などの行為を指します。認知症中核症状の見当識障害や実行機能障害等により、汚物やトイレの方法を認識できないことが原因です。排尿困難や歩行困難など、トイレの排泄が困難な認知症患者に多い傾向があります。

不潔行為は後片付けや本人のケアが大変であるため、介護者にとっては身体的・心理的ストレスが非常に大きいことが問題です。しかし、本人とっても失敗のダメージは大きいため、きつく当たらないことが重要となります。責めてしまうと失敗を隠そうとして症状が悪化する場合もあるため注意が必要です。

不潔行為に対しては、ポータブルトイレの活用・張り紙でトイレへの導線を案内する・つなぎパジャマを活用する等の対策が効果的とされています。

【行動異常】介護拒否

介護拒否とは、介護が必要な状態であるにも関わらず、本人が介護を拒否することを言います。主に以下のような原因によって起こります。

  • 認知機能の低下により介護を受ける意味が理解できない
  • 介護を受けることに対する羞恥心が強い
  • 自立心が高く必要無いと思い込んでいる
  • 介護で不快な思いをした経験がある
  • 環境や習慣の変化を受け入れられない

介護者と被介護者の意思疎通が不十分だと介護拒否を招きやすいため、双方が寄り添い十分に理解し合うことが重要となります。

認知症の周辺症状が出現する時期

認知症の周辺症状は、認知症の進行の程度により、出現する症状が異なるという特性を持ちます。どのような時期にどのような症状が出現するのかを下記に解説していますので、参考にして下さい。

初期(第1期)

認知症初期は、発症から約1~3年の時期を指し、軽度認知症と呼ばれています

この時期には下記のような症状が出現し始めます。

  • 不安・抑うつ・焦燥
  • 記憶障害
  • 記銘力障害
  • 見当識障害
  • 物盗られ妄想

早い段階では日常生活への支障は少ないものの、知的機能障害と精神症状が徐々に進行しはじめ、やがて自分で日常生活を送るのが難しくなってきます

中期(第2期)

認知症中期は、発症から約2~10年の期間を指し、中度認知症と呼ばれています

この時期には初期の症状が更に激しくなり、下記のような症状が出現し始めます。

  • 幻覚
  • 妄想
  • せん妄
  • 徘徊
  • 失行
  • 失認

精神症状が悪化してくるのに加えて、行動異常が顕在化してくるのが特徴です。この時期になると、食事・着替え・入浴といった日常生活動作を自力で行うことが困難となるため、介護が必要となってきます。

末期(第3期)

認知症末期は、発症から約8~12年の時期を指し、重度認知症とも呼ばれています。末期には下記の様な症状が現れます。

  • 寝たきり
  • 意思疎通困難
  • 人格変化
  • 無言
  • 無動
  • 異食
  • 弄便
  • 失禁

末期になると厳しい周辺症状が多く出現するため、自宅での介護は非常に困難です。日常生活全般に渡って常に重度の介護を要するため、専門的な病院や施設の利用を視野に入れる必要があります。

認知症の周辺症状のケア・治療法

認知症の中核症状は適切なケアや治療により軽減できるのと同様に、中核症状に付随する周辺症状も軽減することが可能です。下記に認知症の周辺症状のケア・治療法について解説していますので、参考にして下さい。

薬物療法

認知症における薬物療法は、脳機能の低下による認知症の進行を遅らせるための治療法で、中核症状・周辺症状の療法に用いられます。認知症の周辺症状に対しては、下記のような治療薬が処方されます。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)・・・不安・抑うつ・意欲低下といった精神症状による低活動状態に対して処方される。

抗てんかん薬・抗精神病薬・・・興奮などの過活動を抑えるために処方

漢方薬・・・幻覚、興奮・攻撃性、焦燥感・易刺激性、異常行動等に対して効果が期待できる。

薬物療法は、主に認知症周辺症状の精神症状に対して有効性が認められる治療法となります。精神症状に対しては効果的な反面、異常行動に対しては効果が乏しい傾向にあります。

関連記事:認知症は改善できる?治療法・治す方法はあるのか解説-医師監修

非薬物療法

非薬物療法とは、薬を使わず症例に応じて環境への介入や心理的介入を行い、脳の活性化を試みる治療法です。認知症の周辺症状に対しては、主に下記のような治療法が用いられています。

リハビリの種類詳細
認知症リハビリテーション音読・計算・読み書きといったさまざまな脳トレを行い、脳に刺激を与える方法。
生活リハビリテーション掃除・洗濯・料理などの日常生活動作に取り組み、積極的に身体を動かすことで身体機能の維持回復を図る療法。
運動療法無理のない範囲で体操・ストレッチ・散歩を行い、体力や筋力の維持向上・血行促進・脳の活性化・睡眠の質の向上を目指す療法。
音楽療法音楽鑑賞・リズム体操・歌唱・楽器演奏など、音楽に触れることで心身のリフレッシュ・脳の活性化・情緒安定を図る療法。
園芸療法自然の中で植物や土に触れることで、五感の刺激・脳の活性化・心身のリフレッシュ・QOL向上等が期待できる療法。
回想法過去の記憶を思い出しながら話し、周囲と経験や体験を共有することで、脳の活性化・孤独感や不安感の解消が期待できる療法。
作業療法・理学療法姿勢の改善・歩行動作の安定性向上・作業を通じた活動性促進等を通じて、身体面にアプローチする療法。

非薬物療法にはさまざまな種類があり、認知症とは一見関係が無さそうな療法もありますが、いずれも一定の効果が認められており、病院や施設でも積極的に実施されています。

自宅介護で取り組めるものもあるため、積極的に実施しておくことで、認知症周辺症状の進行を遅らせることが期待できます。

入院治療

認知症の周辺症状の程度が激しく外来での治療法では対処できない場合や、自宅や施設での介護が難しい場合は、入院治療が行われます

入院治療では、認知症の中核症状・周辺症状そのものの治療に加え、身体疾患の治療・精神科の薬物治療・認知症に対応した看護記録・レクリエーション療法など、本人の状態に対応したさまざまな治療やケアが行われます。

入院治療を受けるには、認知症専門の精神科がある病院を受診します

総合病院・大学病院・精神科単科病院・診療所などさまざまな選択肢がありますが、他の診療科と連携した包括的なケアを受けられる基幹型病院もしくは地域の中核病院がおすすめの選択肢となります。

関連記事:認知症は精神科に入院できる!どのような治療方法が行われる?

認知症の周辺症状に困ったら専門医へ相談しよう!

認知症の周辺症状は個人差が大きく、認知症に起因する症状であるのか加齢など別の原因に起因する症状であるのかは、専門医でないと判断が難しいところがあります。もし周囲に認知症の周辺症状が疑われる方がいる場合は、できるだけ認知症専門医に相談を行うのがおすすめです。

中核症状・周辺症状ともに、早期に診断して適切なケアや治療を行えば、本人が健康に過ごせる期間を伸ばすことができます。

丹沢病院では、認知症の相談・診断・治療・入院まで、認知症専門医による包括的な医療体制を構築しています。ご家族のみの相談対応も可能となっていますので、お気軽にご相談下さい。

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